「真田丸における後藤又兵衛の人物像について」
2017-01-11


私とて何も最初っから又兵衛が、嫌いだった訳じゃないけどここまで好きだった訳でもない。
 何しろわかりにくさの塊のようなところがありました。
 突っ掛かってくる割には南の出丸予定地は譲ってくれるけど、その後だって文句は多いし戦闘でも「俺が撃たれてねえっつってるんだ!」は面白いけど、あまり頼りにしていいもんかどうか迷いますよね。
 かっこいいこと言うシーンはあっても、割と突然に語り出すので、一貫性が無いようにも見える。
 むしろお前は何がしたいんだ。

 何しろ肝心のところで又兵衛は己の心情を語りません。
 モノローグを使わない真田丸の場合、己の内面を台詞で吐かない人物の心情は、状況を整理して動作や視線、表情など他の要素から読む他無いんです。
 又兵衛の特徴は、沈黙にあると思います。
 何か大事なことを決めているとしたらここだな、というシーンでは必ず又兵衛は黙ります。
 ただ言葉を発しないだけでなく、画面の目立つところからも抜けていきます。
 状況の観察に一番適した場所で、相談することなく一人で考えている。埋没しているとき、表情もほぼ固定されているのは外からの干渉を遮断している一種の「型」としての表現だと思います。
 自分で決断するべき場所を流されずに判断できる、ここに又兵衛の案外な冷静さを見ることができます。
 智将としての素地というよりは、長年現場で必要だったから身についた感性。
 つまりベテランの専門職なんですよね。職人としての武将。
 ベテランなので、自分の実力は良い面でも悪い面でもよくよく把握していると考えられます。能力の下限は平均よりずいぶん高いところにあって誇りに、上限の伸び代の無さは屈折になるでしょう。
 優秀なベテラン故のめんどくささがここにある。

 更に又兵衛は黒田家出奔以来の苦労があります。
 ……多分奉公構を食らう苦労はね、疑り深さと後々ネガティブな連想しか浮ばなくなるような悪夢の記憶との集合体ですよ……。そんなもん食らう方も食らわす方もよくよく頑固ですね……。折れろよ!どっちかが!
 性格がより一層屈折したろうなって想像をこれで追加。

 誇り高さと卑屈さを併せ持ち、仲間思いの度量と同じくらい小心で見栄っ張りな職人気質の又兵衛というものを想定すると、大体矛盾なく台詞の無い部分を補完できると思うのです。

 本当に、行くところが無かったから現実的な判断のみで大坂へ来たんですよ。そんな事情言いたくないから言わないんです。
 主導権を握る奴が出ると自分が追い出される可能性があるから、幸村に対する最初の反発が派手なんです。
 真田丸案の方が出来がいいから幸村に南の台地を譲るんです。
 状況が膠着しているとき、暇なときにはまた苦労してきた心の傷が疼くからまた文句を言うし、団右衛門の夜討ちツアーにも参加する。初陣の若武者の手前いいとこ見せたくて下手を打つ。
 それでも、幸村に付き合っても悔いは無いかなと判断したから大坂に残る。
 城に家族を呼んでいいですよ、となれば呼ぶ家族の無い連中を集めて寂しくないようにするし、おそらく家族を呼んだ相部屋の明石に気を使って部屋を空けてやった側面もあるでしょう。
 堀の再掘削を止め切れないのは、主馬の勢いからしてもうそう長くは止められないというある種ベテラン故の諦めの早さと考えます。それと、やっぱり動きの無いときの集団内の鬱屈にいやな記憶のひとつふたつあるのかな。

 私は面倒くさくて繊細で夢と辛抱の足りないおっさんな又兵衛が、好きですよ。

 最期はなぁ。
 佐渡守の計算という演出が、本当に華のある手向けで。
 佐渡守の言う通りの調略に対する心理的影響と、諦めの良さの相乗かと。
 幸村と又兵衛は、実務者としての考え方は多分似ています。
 そして残念ながら又兵衛は幸村ほどしぶとい希望を持っていません。

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[真田丸]

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